“コロナショック”時代へのメッセージ ~胆力と思いやり~

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって私たちが直面している“コロナショック”で、行事の中止や延期が相次いでいます。私の面談やがん哲学外来(メディカルカフェ)も例外ではありません。

 そんな中、ある新聞記者から、大変誠実で心深い質問を受けました。

 「新型コロナウイルスのためにさまざまなイベントが中止になっています。最近の心配事は、このような自粛によって“コロナうつ”などといわれるような、精神的な負担が増えているようにみえることです。これは、がんという正体の分からない相手と向き合うこととも通じるのではないかと感じたのですが、この、見えない相手とどう付き合うべきかという視点から、樋野先生の“処方箋”をうかがうことはできませんでしょうか」

 その答えとして、私はまず「曖昧なことには曖昧に答えるのが科学的です」と返しました。そして、アスベストによる中皮腫といった環境発がんの例を示しながら「真の発がん研究者の基本精神は『先楽後憂ではなく先憂後楽であるべき』だと考えます。勝海舟のように、最悪を考えて準備しながら“世間の騒擾(そうじょう)に一喜一憂せず、綽々(しゃくしゃく)たる余裕”で、過度な不安の風貌を示さず最善を尽くした胆力を持つ。このような、真のリーダーシップが望まれます」と伝えました。

 がん哲学外来の理念は、下記の3項目です。
  1.幅の広さを持つ
  2.弾力性に富む
  3.洞察と識見のひらめきを大切にする

 そこで、読書の時間が与えられた今回、新渡戸稲造による“言葉の処方箋”を復習し、以下のことを学びました。
  1.『修養』からは、発心を忘れずに継続すること
  2.『人生読本』からは、小さな職務に忠実であること
  3.『世渡りの道』からは、親切とは行動すること
  4.『内観外望』からは、有事のときこそ素人の良さがあること
  5.『新渡戸博士追悼集』からは、いろいろな意見に耳を傾けること

 そして、これはがん哲学外来の心得5か条でもあるなあ、と感じたのです。

「最も必要なことは、常に志を忘れないよう心にかけて記憶することである」(新渡戸稲造)

 “コロナショック”で大変な時代であっても、いつもと変わらずブレない人物の訓練こそが、まさに「がん哲学外来」の実践であると考えます。

2020年4月
一般社団法人がん哲学外来 理事長 樋野興夫